課題文『自分のアタマで考えようー知識にだまされない思考の技術』

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先日、匿名で答案添削の依頼がありました。
当塾は、学習にまつわる相談は無料で広く実施していますが、小論文添削を無償で行うサービスは提供しておりません。これを受けて急遽、単発で添削に対応するコースを設定することにしました。

目次

課題文

寄せられた答案

講評

結論から言えば、厳しい指摘と感じるかもしれませんが、答案は採点者である大学教員から小論文ではなく、作文(散文)とみなされるため、残念ながら合格圏内に大きく届いていません。

小論文の答案として致命的な欠陥は次の3つが挙げられます。

第一に、序文で小学生の時の回想が用いられていますが、この答案でなにを示すのか、大きな問題意識がまったく示されていません。

問題意識というのは、問題設定(問い)を支えるもので、わかりやすくいえば「なぜこれを論じるかといえば、こういうことに関心があるからだ」ということです。

問題文に示されている通り、ネット時代における記憶と思考、そして思考の枠組についてどのように捉えているのかを冒頭で説明(記述)する必要があるにもかかわらず、なにも触れられていません。

例えば、

今日、パソコンやスマートフォンが普及し、誰でも簡便に情報を発信できるとともに、不特定多数の送り手から情報を受け取りながら、「知識」を得られるようになった。こうした利便性の享受の一方で、多くの知識からいかに思考の枠組を築くのかが問われている。

といった文章を置かないと、一体この答案はなにを主張しようとしているのかが不明なまま(どこに連れていかれるのか皆目わからないまま)、採点者は文章を読み続けなければなりません。

これは「そもそも《小論文とはなにか》について理解していないのだな」という印象と採点結果を序文でもたらしています。

第二に、二段落目では、中世日本の事象と年号が記されているものの、そもそも「なぜ日本史に関する記憶」を具体例として取り上げるのか理由が述べられておらず、それが作文(感想文)の域を出ない大きな理由の一つとなっています。また、「日本史の思考の棚」もなにを指し示しているのか採点者(読む側)にはよくわかりません。

第三に、三段落目では、漢字や九九、英単語を「意味もなく大量の情報を覚えさせられた」と記述していますが、これらは「意味がない」情報ではなく、《読む、書く、話す》という思考の基盤をなすもので、採点者からは大きな失点、あるいはこの記述だけで不合格と判断されうる、いわば非常に危険な記述をしてしまっています。あるいは、思考枠組の基盤となる知識について、根本的な「勘違い」「取り違え」をしてしまっているとみなされる恐れがあります。

また、第一段落および第三段落の最終文に「やはり」という語句が用いられていますが、なぜ「やはり」なのかは読む側にはまるでわかりません。

さらに言えば、最終的な結論は「深く考えることで長く記憶できるようにすべき」と示されているものの、これは問題文にある思考枠組ではなく、記憶方法についての記述となってしまっているため、序文から採点者の抱えた「?」は最後まで解消されない印象の答案となっています。

むしろ、序文にこの最終的な結論を示したうえで、論を展開したほうが説得力が増すでしょう。

根本的な課題として、作文と小論文の違いはなにか、小論文とはどういうものなのかに関する理解をする必要があります。この答案では、採点者の求める「大学入学後にレポート作成を行うためのごく基礎的な能力」があることを示すことができません。上述の通り、大きな課題がある答案のため、取り急ぎ講評のみとします。

補足

匿名で無償の添削希望に応じることはかないませんが、各講座単発添削コースに受講申込をいただいた方に対しては、実力やレベルに関わらず、(当然)添削の赤字を入れたうえで戻します。

正直に申し上げますと、この匿名で添削を希望された高校生の方は、基本講座を受講のうえで《そもそも(小)論文とはなにか》について講義を通じて理解していただきたかったと思います。というのも、このままいわゆる《オペ(手術)》が施されず、「なにか答案を書く練習はしているけれども、なにが正しい答案かはよくわからない」状態のまま本番の試験会場に行ってしまったら大変な事態となってしまうからです。

はっきり申し上げれば、この答案では合格することが残念ながら難しい。

大学受験は、高校生や浪人生の皆さんにとって、人生を左右する大きな事柄です。

当塾のみならず他塾を含めた宣伝になってしまい恐縮ながら、「無償や廉価」で小論文試験という《各自にとって「正答」の異なる試験科目》を制するというのは、かなり無理があることだと思います。現実的には不可能だろうと思われます。

きちんとした内容の指導、しっかりとした質の指導が小論文対策には必要不可欠だろうと思います。

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