はじめに
前回の投稿で、【中央大学国際経営学部】2023年度小論文試験で出題された「グローバル化と格差」に関する説明を2回に渡って行いました。
今回は、類似した出題として【青山学院大学地球社会共生学部】2020年度小論文試験で問われた「相対的貧困(relative poverty)」と「社会的排除(social exclusion)」について正答例を公開し、解説します。
青山学院大学各学部出題解説 ※画像クリックで該当リンクへ
募集要項
以下、募集要項(一般選抜)に沿いながら抜粋のうえ、概説します。
グローバルな課題に関する表現力と論理的思考力が求められています。2020年度試験では、課題文要約と意見記述などが設定され、アドミッション・ポリシーに沿った出題内容といえます。
出題内容
2024年度当塾受講生 一般選抜合格者
正答例
問4
※正答例および解説を公開します
※なお、この正答例はクベルナレッジアカデミーが独自に作成したものです。本文、写真、および絵のすべてに関する著作権はクベルナレッジアカデミーに帰属しており、無断での複製や転載は厳しく禁じられています。 他のウェブサイト、印刷物、電子メディアなどへの転載は一切許可されません。 無断転載には法的措置を取る可能性があります。
問題解説
2020年度試験は、『弱者の居場所がない社会』(講談社新書、2011)が課題文として採用され、厚労省『平成28年国民所得基礎調査の概要』(2017)およびOECD『Poverty rate』(2019)が資料として示されました。
この出題をみてもわかる通り、2020年度の試験といっても約10年前の文献が出典となるように、「昨年、刊行されたばかりの話題の新刊」は課題文として採られる可能性は高くありません。なぜなら、学術においては、すでに評価が定まっている研究者や著作を典拠にする傾向があるからです。資料に関しても厚労省やOECDなど公的な機関の調査結果であれば、「安定性」が高いと判断されます。
したがって、小論文試験対策としては「話題の新刊」ばかり読む必要がありません。
問1
問1は、「絶対的貧困」のみならず「相対的貧困」という考え方(概念や定義)から貧困を捉える必要性について、コンパクトに記述するよう設定されています。
「絶対的貧困」とは、地球規模で広がるグローバルな貧困を指しています。
1968年から1981年にかけて世界銀行の総裁だった米国の実業家・政治家であるロバート・マクナマラは、絶対的貧困を「栄養不足、非識字、病気、不潔な環境、高い乳幼児死亡率、低い平均余命を特徴とする生活状態であり、人間の尊厳に関するいかなる道理的定義の足元にも及ばない状態」と定義づけました。
富の偏在と貧困の遍在
その世界銀行による2000年/2001年の報告書によれば、世界人口約60億人のうち、半数近い約28億人が1日2ドル以下、1/5にあたる約12億人が1日1ドル以下で生活していたとされます。
物価の変更にあわせて2008年にそれぞれ1日1.25ドル、1日1.90ドルに改定されたにせよ、現在、グローバルな貧者は7億人強とみられています。つまり、世界の人口の約12%が絶対的貧困に苦しんでいるというのが実態です。
一方で、国際NGOのオックスファムは、2014年のダボス会議に先駆け、世界人口の最富裕層1%の総資産額が110兆円であり、世界の富豪85人の総資産額が世界人口の半分のそれと等しいと示しました。
このように富は偏在し、貧困が遍在しているのです。
こうした点を踏まえながら、問1の解答のポイントは、課題文がその時代や地域に特有の生活水準全体から人としての尊厳や人権を考える必要があると述べている点です。
解答は、マクナマラによる絶対的貧困の定義とともに記述しました。
参考までに記しておくと、世界銀行による絶対的貧困に関する定義や富と貧困の偏在と遍在は、小論文対策のノートに書き写し、何度も何度も見返すことで、頭の中に記憶しておくのです。そうしたストックがどれだけあるのかも、小論文試験の勝負所です。ストックが多ければ、どんな出題にも対応できる装備が充実していることになります。
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問3
問3の正答例のポイントは、「社会的孤独」を私的領域、「社会的排除」を公的領域と弁別し、記述した点にあります。
私的領域と公的領域
ドイツの社会学者・哲学者ユルゲン・ハーバーマスによれば、生活世界は社会的に統合された行為領域であり、そこでは文化、社会、人格という構造成分によって、文化的再生産、社会的統合、社会化という再生産の機能が果たされ、その意味での合理化が行われる。この生活世界は社会的な空間としてみれば、私的領域と公共圏(公的領域)から構成される。私的領域は家族、隣人関係、自由なアソシエーション(連帯関係)に支えられ、その制度的な核は生産機能を免除され、専ら社会化の課題だけを担っている小家族である。公共圏は私人と公民に支えられ、その制度的な核はマスメディアなどのコミュニケーション網であり、それによって文化享受者としての私人は文化の再生産に、公衆としての公民は世論を媒介として社会的統合に参加する可能性を与えられる。
『公共圏という名の社会空間-公共圏、メディア、市民社会-』花田達郎(1996、木鐸社)
※なお、慶応文学部の2022年問題(一般選抜)において、ハーバーマスによる著名な『公共性の構造転換』が出題されています
ハーバーマスもアーレントも、小論文試験で取り上げられることの多い哲学者ですが、両者ともに「なにが《私》praivateで、《公》publicなのか」に関して重大な関心を寄せています。
18世紀から19世紀にかけて、イギリス、フランス、ドイツで発達した「市民的公共性(public sphere)」すなわち市民社会に特有の「公共的コミュニケーション」の成立とその変化を論じた
社会学ベーシックス9 政治・権力・公共性(世界思想社)
公的領域は究極的には人間の活動と言論に依拠するとして、これまでの公的領域の考え方を一変させた。
社会学ベーシックス9 政治・権力・公共性(世界思想社)
… …
活動と言論を共有することから生まれる公的領域の実現
ここで紹介した私的領域と公的領域の概念は、例えばSNS上における言論の自由を論じる際などに、とても有効な概念装置です。こうした背景知識に基づいて論を展開すれば、上位数パーセントの中に答案が入ってきます。
小論文試験で入学時に特待生の枠を取りたい受験生や上位校向けに対策を進める受験生には、ぜひ理解と記憶を勧めておきます。
正答例の中に、「私的領域」と「市民社会」をまぶした理由は上述の通りです。
では、社会的排除とはなにを指示しているのでしょうか?
社会的排除 social exclusion
社会的排除とは、財や権限を既得する社会層・集団やそれらの意向に呼応する国家権力によって、特定の社会的カテゴリーが資格外とみなされ労働市場や制度あるいは日常生活において財や権限、社会関係から締め出されることをいう。1980年代以降のヨーロッパにおいて、貧困の要因や貧困状態そのものをとらえる言葉として政策的・政治的議論において頻繁に用いられるようになった。… …
類縁概念である差別が個人間の心理現象をまで対象化するのに対し、排除は階級・階層構造の生産・再生産の局面に焦点化されて用いられる。ただし、排除の過程においてそれを正当化するものとして当該社会の差別的な意識・無意識が「利用」されるのであり、社会的排除論は差別論を組み込んだ階級論の試みであるということができる。
『現代社会学事典』(2012、弘文堂)
ここで重要なのが、差別と排除は弁別されていることです。繰り返せば、「排除は階級・階層構造の生産・再生産の局面に焦点化されて用いられる」。
不寛容社会の記述の中で、「出自」と入れたことに対応しています。
手の内を明かすと、正答例を書いた後に『現代社会学事典』を紐解いたのですが、このように小論文試験ではいわば「鼻を利かせる」ことが重要です。高等戦術ではあるものの、採点者である論文のプロたる大学教員が広範な知識や知見を有していることを見越したうえで、一文ごとに隅々まで目配りし、過不足なく記述を充填しておけば、答案を読み進める際に「?」がつきにくいということです。
これは、当塾の添削において、受講生にとって「かなり厳しいと感じるかもしれない指摘」を赤字として書き込む理由です。当塾以上に大学教員の「論文に対する眼」は厳しいものだと想定しておいたほうがいいと思われます。したがって、当塾の添削は「?」を感じた記述に関して、受講生の方々に忖度することなく、指摘しています。
それで試験に合格できれば「安いもの」だと捉えるようにしてください。
話は横道に逸れましたが、社会的排除について考える際に、社会関係資本という概念も登場します。
社会関係資本 social capital
人々の間の協調的な行動を促す「信頼」「互酬性の規範」「ネットワーク(絆)」をソーシャル・キャピタル、日本語で社会関係資本と呼んでいる。
2011年3月11日の東日本大震災は、言葉を失う痛ましい出来事であったが、同時に日本という国の社会関係資本の厚みを世界に示した。見ず知らずの人への「信頼」、そして「お互い様」という互酬性の規範、そして人々の間の絆がこれほどまでに見事に示された例は戦後いまだかつてないだろう。
『ソーシャル・キャピタル入門-孤立から絆へ』(2011、稲葉陽二、中公新書)
つまり、社会関係資本は、排除とは反対に包摂を志向する概念ということがわかります。紙幅の都合から、詳しい説明は以下の文献を紹介するにとどめますが、興味のある受験生は、読んでみることを勧めたい。
正答例の最終段落は、この社会関係資本について、ある程度念頭に置きながら記述を進めています。設問が求める政策や取り組みとは、つまり社会的排除を受けた/受けている人びとが、社会関係資本をどのように構築していくのか/しうるのかということです。正答例は、800字を想定したうえで作成しましたが、非常に短い制限字数であるため、社会関係資本については直接、言及していません。
なにを答案に盛り込んで、なにを省くのかは、小論文執筆に習熟する過程で獲得できるものです。とにかくたくさん書き、考えては読み、読んでは書くという訓練を短期間で集中的に行うことが小論文試験に対峙する際の基礎体力となります。当然ながら読めない人は書けず、書けない人は読めないという傾向が老若男女を問わずみられます。
ぜひ、(準備期間に猶予がある際は)書く訓練と同時に読む訓練も行うことを勧ておきたいと思います。
「青学総文専科コース」では、主にB方式《論述》対策に対応するために、書くと読むの双方を徹底的に訓練します。
問4
今回の答案では変則的な手法を採用しました。課題文には「具体例を1つ挙げる」よう指示がありますが、英米仏における移民排斥問題をあえて、答案冒頭に提示しました。これには二つの意味を込めています。
一つは、前回「グローバリゼーション」を解説しましたので、こうした形で答案の中でその知識を用いるということをこの記事を読んでいる皆さんへ知ってもらう目的です。
もう一つは、最終段落にある「グローバル経済」の記述への布石を目的としています。相模原市障害者施設での戦後最大ともいえる殺傷事件を日本だけではなく、世界の文脈の中に置いたうえで議論する必要性を主張する狙いがあります。
なお、正答例で挙げた「不寛容社会」に関するテレビ番組データと世論調査は、こちらを参照のこと。
NHKスペシャル「私たちのこれから#不寛容社会」2016年6月11日(土) 放送
NHK放送文化研究所「『不寛容社会』に関する世論調査(2016年5月)」
NHKの番組放送内容であれば、小論文試験の答案に用いることはOKです。積極的に背景知識のストックを増やしましょう。
アドミッション・ポリシーに掲げられている通り、青山学院大学地球社会共生学部は諸課題をグローバルな文脈の中で議論する力のある受験生を求めています。そうした視点や視座のあることをアピールすることも、小論文試験では非常に重要になってきます。
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