横浜国立大学 都市科学部 都市社会共生学科[前期]一般選抜【小論文解説】

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横浜国立大学 都市科学部 都市社会共生学科[前期]一般選抜 小論文の概要と傾向

試験の概要

出題形式:
※大学HPで過去問公開

配点:500/500

時間:

出題の傾向

難易度:標準

【ポイント】
卑近な表現をすれば、「論じる腕に覚えのある人、集まれ!」というような大学の洒脱なメッセージが感じられる良問である。

令和5年度の問題で、[文章A][文章B]の2題が与えられ、それぞれの課題文の下線部該当箇所についてコンパクトにまとめさせたうえで、双方の文章から立論することが求められている。

大学入試小論文で課題文が2題与えられることは多くない。また、それぞれの論考の立脚点や位置関係に関する測定に基づいた考察を求める出題も少ない(一方で、旧帝大は複数の課題文を設置することが多い)。しかし、大学に入学すれば、2つに限らず、複数の学説や論考の共通点や相違点を特定したうえで、先行研究をマッピングし、自身の論を位置づけることが一般的である。したがって、ある意味で大学水準の立論のミニチュア版を試験で行わせているともいえる。

[文章A]について概説すれば、社会学において「戦争社会学」と名指される学問領域がある。課題文は朝日新聞の発行する、ややアカデミズムに寄せた月刊誌『Journalism』の寄稿文で、戦争にまつわるナラティブと報道、経験の継承について論じたものである。「戦争社会学」に仕分けされそうな論考である。
文中にある見田宗介は東大社会学のいわば「ボス」である。「見田社会学」と呼ばれ、弟子筋の研究者は日本における社会学のメインストリームを形成するほどの日本における重要論客である。見田の新書も小論文対策になるし、課題文として採られる可能性も十分ある。

[文章B]は、またしても岩渕功一が編者を務めた『多様性との対話』からの出題で、ジェンダー研究で知られる清水晶子(東大教授)の寄稿から採用された。この文献から2022年度のお茶の水女子大学 文教育学部[後期]一般選抜でも課題文が採られている。奇妙な言い方になるが、国立大学の教員にとっていわば「芯を食っている」論考なのである。学問における批判的な姿勢とはなにかについて高校生に問いやすい示唆に富んだ論考ということだ。
(参考までに言及しておけば、海外で「クイア・スタディーズ」は、社会学や現代思想のフィールドでいま、大きな注目を浴びる学問領域である。余裕のある人は、ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル』などに目を通しておくとよいだろう)

注目すべきは、設問に「あなた自身の体験(または見聞きしたものでも可)」と指示されていることである。これは、高校生という大学教員よりも一回りも二回り以上も若い人が「うむむ(溜息)社会現実はそこまで来ているのか,,,」と大学教員を唸らすチャンスでもある。つまり、最先端の最新の事例を示し、それを課題文の分析視角に沿いながら観察の記述をおこない、分析し、考察を提示することを大胆にもおこなうことができる。
(例えば、こうした事例など。朝日新聞デジタル 2023年12月6日付記事「『SNS→実際に会った』は15% 高校生が明かした実態に先生驚き」)

なぜ、大胆かといえば、2題のうち[文章B]に関してLGBTQなどジェンダーをめぐる最新の事例を紹介した際に、大学教員の答案想定範囲を超える可能性があるからである。例えば、自身なり友人なりのLGBTQをめぐる壮絶ないじめ、嫌がらせ、トラウマがあったと仮定した際に、それについて体験者としてつまり当事者として<語る>(記述する)、あるいは非体験者として<経験化>つまり内在化する作業の答案記述となることも考えられる。
(この事例は、[文章A]に戦争という極限状況、例外状況をめぐる<経験化>や体験の継承について論じる課題文が選ばれていることを踏まえている)

ここまで課題文に踏み込めば、現実社会の実態は、社会学なりクイア・スタディーズなり学問状況よりよっぽどドラスティックに変化しており、理論や研究や論考と実際の事例の乖離が明瞭な状況にあるといえるかもしれない(しかし、その乖離を考察することが学問全般や社会学のいわば醍醐味でもある)。

したがって、本出題はさすが「横国」らしく、「本格派の出題でありつつ、どこかしらアーバンで、さばけた」印象がある。高校生らしく率直に現実状況を具体例として示したうえで、課題文の射程で捉えられる部分と、それだけでは捉えられないような実態にあることを記述することが(問3の500字という短い制限字数ではあるものの)一つの解答戦略として考えられる。
※学問において、ある分析視角や理論が、観察結果や現実状況に対応できないことは、人文社会科学でも自然科学でもよくある。そうした際に、その分析視角や理論の射程に限界があると示すことも一般的である
※これはあくまで雑感ながら、問1・2ではしっかりと要約できる「論理をグリップする手堅い守り」、問3については「論理的な意味での攻め、ラディカルさ(鋭さ)」を示す答案を大学側は期待しているような印象もある

国立大学による小論文問題としては珍しく「自身の体験に基づく記述」を求めるチャレンジングな出題である。都市社会共生学科がHPで謳う通り、思想・芸術、歴史学、人類学、政治学、社会学について基礎的な背景知識を持っておくことが、なかなか幅広い領域ゆえに時間も手数も必要とされるものの、きわめて有効な小論文対策となる。

文系小論文基本講座

【補足説明】
なぜ、「チャレンジングな出題」なのかについて、大学入試小論文の出題と答案をめぐる《論文形式》と《散文形式》の相克として次の四点に分けて説明しておこう。「論文と作文の違い」や「あたなの意見を述べよ」と「あなたの体験を交えて述べよ」について混同したり、戸惑う高校生が少なくないからである。
小論文の書き方を参照のこと)

【事例1】神戸大学法学部
例えば神戸大学法学部の出題設問文では「あなた個人の見解を述べるのではなく、資料に書かれている内容に基づいて記述すること」とわざわざ明記されるなど、「私の体験談/体験記」を小論文試験の答案として求めていないと明示するケースもある(神戸大学法学部[後期]一般選抜【小論文解説】)。

【事例2】看護系大学・学部
一方で、こうした「私の体験談/体験記」が求められるのは、看護系大学・学部である。なぜなら、将来就きたいと希望する内的な動機がきわめて重要となる高度専門職だからである。医師や看護師といった生命に直接関わる医療専門職に求められる職業規範は、内的な動機と高邁な理念が結びつきながら形づくられるからでもあろう。

【事例3】周南公立大学
他方で、周南公立大学で大学側からの問題講評として「図表読解の問題では与えられた情報からどこまで論理的に課題解決の方法を論じられるかが重要であるが、図表には全く示されていない根拠のない情報(テレビで見た、等)を用いて飛躍した持論を展開する解答(私の祖父母は○○を実践している、等)も散見された」と示されていた通り、論文形式ではなく、散文形式で「私の体験談/体験記」を書く、つまり論文と作文とは異なる点を理解できていない大学入試小論文答案は非常に多いと思われる。当校受講生も一回目に提出する答案が論文ではなく、作文となってしまっていることが実に多い(周南公立大学校推薦選抜&総合型選抜&一般選抜【小論文解説】

【事例4】作文からの脱却
「私は」から書き始める小論文答案からの脱却は、この事例を参照願います。オンライン講義で「論文と作文の違い」についてわかりやすくレクチャーしたうえで(オンライン講義スライド抜粋、オーダーメイドの個別指導を行うことで答案の質が圧倒的に向上し、この受講生は志望校に見事合格を果たしました(小論文の質が向上した当校受講生の事例)。

※1 参考までに付言しておけば、国公立・私立を問わず、また志望校の難易を問わず、上記の他大学出題解説は役に立つものなので、閲読しておいてください(×「国立だから関係ないや」「私立だから見なくていいか」)
※答案を執筆した際は、出題分析の質の高さが担保された添削講評を受ければ、いわゆる書きっぱなしにならずに済むため、当校ほかで提供している「単発添削」や「講座受講」を活用することを勧めておきます

※2 なお、当校講師は社会情報学、メディア研究で博士課程で修学した経験や私立大学で「情報社会論」の講師を務めた経験があるため、東大情報学環(大学院修士課程)入試や社会科学系大学院修士課程入試の論文指導も可能です

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具体的な対策問題

過去問以外に、どのような問題に取り組むことが小論文対策になるかわからないといった相談の声が寄せられることがあります。
当校では、アドミッションポリシーを分析し、過去問以外で事前に取り組むべき対策問題を選定して提示するほか、時事課題論文については新聞記事から作問して用意するケースもあります。

参考)東大情報学環・お茶の水女子大・一橋大 院試過去問

例えば、東大情報学環(大学院修士課程)入試では、次のように出題される(2020年過去問)。
院試では課題文は与えられないことが一般的です。

以下はお茶の水女子大と一橋大の修士課程の過去問(2023年)。

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