はじめに
北九州市立大学では、多くの学部・入試方式で小論文が試験科目に採用されています。
特に、学校推薦型選抜(文系)において、外国語学部・経済学部・文学部・法学部の4学部で実施されており、入試選考科目として小論文を重視しているといえます。
したがって、大学からしっかりとした小論文対策が求められているともいえます。
一般選抜 前期日程(文系)
- 文学部・人間関係学科
- 法学部
一般選抜 後期日程(文系)
- 外国語学部・英米学科
- 外国語学部・中国学科
- 経済学部
- 文学部・比較文化学科
学校推薦型選抜(文系)
- 外国語学部・英米学科(地域推薦)
- 外国語学部・国際関係学科
- 経済学部
- 文学部・比較文化学科
- 文学部・人間関係学科
- 法学部
総合型選抜(文系)
- 外国語学部・国際関係学科
募集要項
選抜区分ごとの出願期間、試験日、合格発表日は次の通りです。
学校推薦は、出願が2023年11月1日(水)から8日(水)まで、試験日は11月26日(日)です。
この記事を書いているのは2023年10月初旬ですので、残すところ約2か月というところです。それなりの覚悟や努力は必要となりますが、まだ対策に間に合うタイムスケジュールです。
出題の特徴
過去問の開示・入手
過去問にくわえて解答例や出題意図をサイト上で広く開示している点が特徴として挙げられます。
私立大学のみならず国公立大学でも過去問の開示について期間限定にするほか、Webサイトではなく大学窓口や図書館での開架とするなど、その地域に在住していない受験生にとって過去問を入手すること自体が困難なケースもあるため、公立大学としてひじょうに良心的でオープンなスタンスが感じられます。
小論文対策
解答例や出題意図が示されていることから、受験生が自主的に小論文対策を進めやすい環境を大学として整えているともいえます。
(ただし、自身で書いた答案を査読してもらい、添削や講評とともに、助言を得ることの重要性は他大学と変わりません)
合格者速報(2024年度大学入試)
出題内容
当サイトには、「北九州大学 小論文」といった検索語で辿り着く人がいることもあり、今回、法学部の学校推薦型選抜試験問題を取り上げます(画像クリックで拡大)。
正答例
大学開示の解答例・出題意図
問題2 正答例
※正答例および解説を公開します
※この正答例はクベルナレッジアカデミーが独自に作成したものです。本文、写真、および絵のすべてに関する著作権はクベルナレッジアカデミーに帰属しており、無断での複製や転載は厳しく禁じられています。 他のウェブサイト、印刷物、電子メディアなどへの転載は一切許可されません。 無断転載には法的措置を取る可能性があります。
※なお、正答例は以下の問題解説をおこなうための教材としての意味合いも持たせています。つまり、「試験本番でこうした正答例は、とても書けない」と感じる必要はありません。むしろ、この正答例から小論文対策の学習を進めてもらうことを企図しています(狙いとしています)。
問題解説
課題文は、出題意図に示された通り、現代のデジタル時代においてメディア環境が構造変動のなかに存立しており、「ニュース」「デマ」「フェイクニュース」「オルタナティブ・ファクト」といった事象や「ポスト・トゥルース」「エコーチェンバー」「フィルターバブル」といった現象から具体的にその特徴や課題について示している。
問題解説からはやや離れるものの、課題文は小論文対策としてぜひ参照すべき点があります。それは次の2つです。
1)用語の定義を明確に示している点
課題文は、「ニュース」「デマ」「フェイクニュース」「オルタナティブ・ファクト」といった事象や「ポスト・トゥルース」「エコーチェンバー」「フィルターバブル」といった現象について、「概ね皆、知っているでしょう」などして、こうした用語を所与のもの(当然、知っているもの)と決してしていません。また、用語の定義を曖昧にしたまま、議論を進めるといった素振りもまるでありません。
2)論理的な飛躍がまったくみられない点
きちんと丹念に、一手ずつ将棋の駒を指していくように、的確に論を運んでいます。当塾受講生の答案を読んでいると、唐突に二手、三手飛ばしてしまい、まるで「この意見主張は、当然のものです」と記述しているケースと遭遇することがあります。
こうしたいわゆる「論理的飛躍」があると、読む側(採点者)からすれば「このセクションの記述をもっと詳しくしてもらわないと、読むこちらは《なぜか》が一向にわからない」と感じることになります。したがって、減点の対象となるわけです。
課題文のように、一文ずつ、着実に論を広げていく丁寧さをぜひ意識しましょう(真似しましょう)。
さて、現代のメディア環境をどのように見立てるのかというのは、小論文試験のみならず、今日われわれに問われているとても重要なテーマです。
そうしたテーマを論じるにあたり、「私ならではのオリジナリティ溢れる考えや意見」を追求する必要はありません。そもそも今日のメディア環境に関する特徴や課題を多くの論者が議論している最中です。さまざまな要素や事柄、事象や現象が複雑に絡まりながら、現代を取り巻くメディア環境は成り立っています。単純で素朴な技術決定論(技術がすべての事象を決定していくという考え方 ※以下参照)では、今日の状況を見立てたり、見通すことはできないでしょう。
そうであるがゆえに、大学入試の小論文で出題されると、うまく答えられない、あるいは「スマートフォンに24時間、係留されているかのような人びととメディア状況」について客観的に述べることができない受験生もみられます。
その対策として挙げられるのが、課題文で紹介されているキャス・サンスティーン『インターネットは民主主義の敵か』『#リパブリック: インターネットは民主主義になにをもたらすのか』やイーライ・パリサー『フィルターバブル』『閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義』などを読んでおくことです。
それぞれ読みやすいという特徴も挙げられます。
正答例で示したように、「エコーチェンバー」や「フィルバーバブル」といった現象が、社会的な分断や両極化(ポラライゼーション polarization)を招く要因となっています。
より正確にいえば、「エコーチェンバー」や「フィルバーバブル」といった現象がデジタル空間のみならず現実空間でも作用し、政治や経済や文化、また人びとの意識や行動が複雑に織り交じりながら、分断や両極化は進みつつあるともいえます(しかし400字という短い制限字数では、シンプルに「エコーチェンバーやフィルバーバブルといった現象が社会的分断や両極化を招く要因となっている」くらいの記述に留めて問題ないでしょう)。
そして、課題文にも大学の出題意図にも触れられている通り、社会的な分断というと、米国の2016年大統領選挙が想起されるわけです。分断を示す顕著な事例として記憶に新しいところです。共和党トランプ 対 民主党ヒラリーという二人の候補の陣営は、これまで以上にメディア戦略を強化し、両者の対立構造は候補者のみならず、支持者の分断も招きました。つまり、熟議民主主義の前提が掘り崩される事態が露わになったのです。
熟議民主主義
民主主義社会における政治決定プロセスの中で、熟慮と討議に基づく決定を重要視し、決定の段階によりも、そこに至る経緯を大切にする考え方。あるいは、多元的で複雑な現代社会において、伝統的な選挙ではなく、市民の間に共有された利害や共通の善について社会的合意に基づく考えを形成しようとする民主主義論の一つ。
『現代ジャーナリズム辞典』(2014、三省堂)
こうした状況に対する対策として、出題意図はヒントとして「情報リテラシー」を挙げています。これを踏まえて「情報リテラシー」と「メディアリテラシー」の双方が重要であることを正答例では示しました。
今回、北九州市立大学の問題をみてきた通り、法学部であってもメディア環境に関する出題はなされます。なぜなら、デジタル時代(the digital age)においてSNSなどの情報プラットフォームが、公的な言論空間を成り立たせ、それは民主主義の在りように大きな影響を及ぼしているからです。
ぜひ、いずれの大学・学部を志望する際も対策をおこなっておくことを勧めます。
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小論文の書き方
- 小論文に関する基本的な考え方や知識(①②③)
- 各大学の入試小論文解説(④)
- 正答例にくわえてWeb上での講義(⑤)
- 当校受講生の合格者の声(⑥)
を以下のリンクからみることができます。
具体的な対策問題
過去問以外に、どのような問題に取り組むことが小論文対策になるかわからないといった相談の声が寄せられることがあります。
当校では、アドミッションポリシーを分析し、過去問以外で事前に取り組むべき対策問題を選定して提示するほか、時事課題論文については新聞記事から作問して用意するケースもあります。
参考)東大情報学環・お茶の水女子大・一橋大 院試過去問
例えば、東大情報学環(大学院修士課程)入試では、次のように出題される(2020年過去問)。
院試では課題文は与えられないことが一般的です。
以下はお茶の水女子大と一橋大の修士課程の過去問(2023年)。
受験生へのアドバイス
※1 受講生には繰り返ししつこく伝えてきたところではあるが、本試験では当校なりが臨席したうえで隣で答案執筆の介助や補助線を引くことはもちろんできない。サッカー選手のように、ピッチ上に出場した選手としてドリブル、パス、ポジショニングの自己判断を下しながらそれらを一人で行い、局面を打開せねばならない。本解説も「受験生の多くが知りたい、手っ取り早い正答例や正答パターン」を示せば、当然それに引きずられて各位が答案執筆をすることになるため、極力避けるよう配慮したいと考えている。文章を書くという行為自体がきわめて内省的な営為だからである
※2 また、参考までに付言しておけば、国公立・私立を問わず、また志望校の難易を問わず、上記の他大学出題解説は役に立つものなので、閲読しておいてください(×「国公立だから関係ないや」「私立だから見なくていいか」)
※3 答案を執筆した際は、出題分析の質の高さが担保された添削講評を受ければ、いわゆる「書きっぱなし」にならずに済むため、当校ほかで提供している「単発添削」や「講座受講」を活用することを勧めておきます
※4 なお、当校講師は社会情報学、メディア研究で博士課程で修学した経験や私立大学で「情報社会論」の講師を務めた経験があるため、東大情報学環(大学院修士課程)入試や社会科学系大学院修士課程入試の論文指導も可能です
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