筑波大学 一般選抜 小論文の概要と分析
入試改革の方向性
筑波大学は、5年後の2028年をめどに入試改革を行う旨を発表しています。
筑波大学長、2次試験を「面接と小論文中心に」の意向 5年後めど(朝日新聞記事 2023年6月30日付)
筑波大学が入試改革 面接や小論文重視に変更へ「才能見いだす」(毎日新聞記事 2023年6月29日付)
大学入試全体の選考方法に影響を及ぼす指針が示されました。他の国公立大学のみならず私立大学の入学選抜に影響を与えることが予想されるます。
筑波大学は、高等教育論(Higher Education Research)の中でも注目を集めています。教育と研究を分離させ、教養部が存在せず、学部組織ではなく学群や学類といった学制を敷く日本の大学のいわば先駆的存在だからです。
そうした存在である筑波大学が打ち出した入試改革は、端的にいえば、面接と小論文を重視することにあります。
したがって、筑波大学が5年後までに順次、準備を進めていくであろう入試改革は、《大学入試小論文》に限定したとしても、その動向に注目する必要があります。
参考までに言及すれば、国立大学法人法の改正案をめぐり、「国立大学協会」が強い危惧を示す会長声明を発表しています。
国立大学法人法の改正案 国立大学協会が強い危惧示す声明発表(NHK 2023年11月25日)
国立大学の入試改革は、入試単独で見直しが図られるというよりも、現下の状況に置かれた国立大学法人を今後どのように舵取りしていくのかという難題の中で検討が進められています。
人文学類[後期]
【ポイント】
課題文が公開されていないことを受けて、設問と出題意図から説明をくわえます。
令和5年度出題
問1で示された「引用箇所は『 』(鍵括弧)でくくり、下線を付すこと」と指示されています。
これは、大学のレポートや卒業論文で当然、遵守すべき論文のいわば基本的な作法です。論者の主張や意見と自身のそれらは弁別する必要があります。また、大学の学部生レポートで大きな問題となっている《剽窃》を先取りした設問設定となっています。
つまり、論文の基本的なルールを入学試験時に理解していることを大学側は求めています。おそらく今後、こうした論文の構造やルールに対する理解を要求する設問が増えていくと予想されます。市販の「小論文本」ではまったく大学入試対策にならなくなる日もそう遠くないでしょう。
問2の「あなたが専攻しようとしている学問分野と関連づけて論じよ」という設問も、問1の大学側のメッセージと相同といってよいでしょう。つまり、課題文で論じられた内容を自身の問題関心に引きつけながら立論するということは、つまり大学において課題文はより専門的な論考や論文に変わるということを意味しており、そのミニチュア版として大学入試で受験者の力を試そう、測ろうという出題意図があります。
こうした学問に対する理解と姿勢を高校卒業時までに習得するのは、多くの受験生にとって難しいことだろうと思います。一定以上の水準で学修に取り組んできた高校生以外には、入学の門戸が閉ざされているということも意味しています。それが筑波大学からのメッセージである以上、入学を希望する際に、《論文とはそもそも何なのか》について理解しておく必要があります。
- 問題意識・問題提示 ~人間や社会にとってなにが重要なのかを示す
- 観察(の記述) ~具体的事例を上げたうえで、それについて説明する
- 分析 ~その事例はどのような特徴があるのか(どのような特徴があると導き出せるのか)
- 考察 ~①・②・③をふまえ、さらに鋭く結論としてまとめる
教育学類[後期]
【ポイント】
課題文が公開されていないことを受けて、設問と出題意図から説明をくわえます。
令和5年度出題
問1
「人間形成系列」「教育計画・設計系列」「地域・国際教育系列」「学校教育開発系列」の4コースへの志望理由は、推薦入試であれば当然訊かれる内容であるので、一般入試での入学志望者にとっても準備しやすいでしょう。
問2
ヌスバウムが課題文に採られています。
彼女は現代における重要な思想家の一人です。ヌスバウムが採用されるということは、決して変化球やいわゆる「癖球」ではなく、本格的な論考が展開されるものと受験生は心したほうがいいでしょう。他大学でも例えば、同志社大学の神学部(推薦入試)で出題されるなど、学部学科に寄らず幅広く課題文に選定されています。
「マーサ・ヌスバウム – 人間性涵養の哲学」(神島裕子著・中公選書)
二年連続で同じ論者の課題文は出題されないといった現実的な思考ばかりでなく、こうした水準の論考を読解できなければ、合格圏内の答案は決して書けないと思われるので、上記の書籍を小論文対策として挙げておきます。
しかし、多くの受験者にとって、こうした書籍を受験前に「読んでいる時間などない」という現実を筑波大学はどのように考えているのでしょうか?
受験者と大学側のギャップは大きい。
それは日本における大学入試小論文の根本的な矛盾点、課題であるともいえます。
心理学類[後期]
【ポイント】
ひじょうにユニークな出題形式が採用されています。
集団討論を想定し、それを紙上で再現する記述を求めています。論文ではなく、「話し言葉」で書くよう指示されています(過去3年間)。
コロナ禍での受験生の集合を避けることを目的としていると思われます。論文形式ではなく、「話し言葉」での記述が指定されているため、事前に書き慣れておく必要があります。
ポイントとしては、出題意図にある通り、周囲の受験者による意見に応答し(「独りよがり」はNG)、その議論の協働を通じて、論理的かつ協調的に結論を導くよう、わかりやすく答案として示すことでしょう。
話し言葉と示されている以上、例えば「 」(鍵括弧)でセリフを盛り込むこともOKだろうし、■●◇といった記号類を用いながら集団討論で提出されるだろう意見を記すといったような工夫も許可されるでしょう。
障害科学類[後期]
【ポイント】
心理学類とともに、ひじょうにユニークな出題形式が採用されています。
集団討論を想定し、それを紙上で再現する記述を求めている。論文ではなく、「話し言葉」で書くよう指示されています(過去3年間)。
コロナ禍での受験生の集合を避けることを目的としていると思われます。論文形式ではなく、「話し言葉」での記述が指定されているため、事前に書き慣れておく必要はあります。
ポイントとしては、出題意図にある通り、周囲の受験者による意見に応答し(「独りよがり」はNG)、その議論の協働を通じて、論理的かつ協調的に結論を導くよう、わかりやすく答案として示すことでしょう。
話し言葉と示されている以上、例えば「 」(鍵括弧)でセリフを盛り込むこともOKだろうし、■●◇といった記号類を用いながら集団討論で提出されるだろう意見を記すといったような工夫も許可されるでしょう。
障害科学類というきわめて独創的な学問領域を形成している点も受験生は注視する必要があります。
この学類は、いわゆる養護教諭を養成する課程といったことだけを意味していません。
・「障害を科学する」とはどのようなことなのか
・「障害」とはどのように捉えられるのか
について、自身の考えを準備しておくことが答案執筆時にも必ず役立ちます。それは入学前の志望理由であり、入学後の学修へとつながるものでもあります。
情報学群 知識情報・図書館学類[後期]
【ポイント】
課題文が公開されていないことを受けて、設問と出題意図から説明をくわえます。
受験生にとっては周知の通り、図書館学といっても、ただ単に蔵書の整理方法を学ぶといったような牧歌的な学問状況にはありません。知識はどのように形づくられるのかといったような、最先端の学問領域を形成するに至っています。したがって、設問は情報科学の基盤となる基本的な数理学的思考能力(問題1)とともに、英語課題文(問題2)が与えられています。問題2は、入学後に英語文献の講読が多いことに対応しているものと思われます。
難易度を「やや難」としたのは、例えば令和4年度の日本語課題文が柴田邦臣(社会情報学)の『〈情弱〉の社会学』(青土社https://amzn.to/46xXtSW)から採られており、刊行社からもわかる通り、哲学的な論考を捌いたのちに、気候変動に関する英語課題文を捌くという、いわゆる「頭の切り替え」が必要となるからです。
小論文対策を行う際にも、社会科学系の課題文・答案執筆を行った後に、すぐさま英語課題文を読解するといった「二階建て」を勧めたい。英文読解と日本語による小論文答案執筆を併行して行うことで、日本語の文章の精度は着実に向上することも期待できます。
当校からのメッセージ
※1 受講生には繰り返ししつこく伝えてきたところではありますが、本試験では当校なりが臨席したうえで隣で答案執筆の介助や補助線を引くことはもちろんできません。サッカー選手のように、ピッチ上に出場した選手としてドリブル、パス、ポジショニングの自己判断を下しながらそれらを一人で行い、局面を打開せねばならない。本解説も「受験生の多くが知りたい、手っ取り早い正答例や正答パターン」を示せば、当然それに引きずられて各位が答案執筆をすることになるため、極力避けるよう配慮したいと考えています。文章を書くという行為自体がきわめて内省的な営為だからです
※2 また、参考までに付言しておけば、国公立・私立を問わず、また志望校の難易を問わず、上記の他大学出題解説は役に立つものなので、閲読しておいてください(×「国公立だから関係ないや」「私立だから見なくていいか」)
※3 答案を執筆した際は、出題分析の質の高さが担保された添削講評を受ければ、いわゆる「書きっぱなし」にならずに済むため、当校ほかで提供している「単発添削」や「講座受講」を活用することを勧めておきます
※4 なお、当校講師は社会情報学、メディア研究で博士課程で修学した経験や私立大学で「情報社会論」の講師を務めた経験があるため、東大情報学環(大学院修士課程)入試や社会科学系大学院修士課程入試の論文指導も可能です
講座・コース群 ※受講申込受付中
基本講座
国公立二次対策も
早慶専科講座
一般選抜・推薦選抜
早稲田スポ科
専科講座
学芸大
専科講座
単発添削
コース
具体的な対策問題
過去問以外に、どのような問題に取り組むことが小論文対策になるかわからないといった相談の声が寄せられることがあります。
当校では、アドミッションポリシーを分析し、過去問以外で事前に取り組むべき対策問題を選定して提示するほか、時事課題論文については新聞記事から作問して用意するケースもあります。
参考)東大情報学環・お茶の水女子大・一橋大 院試過去問
例えば、東大情報学環(大学院修士課程)入試では、次のように出題される(2020年過去問)。
院試では課題文は与えられないことが一般的です。
以下はお茶の水女子大と一橋大の修士課程の過去問(2023年)。
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