大阪公立大学文学部[後期]一般選抜【小論文解説】

大阪公立大学文学部[後期]一般選抜【小論文解説】
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目次

大阪公立大学文学部[後期]一般選抜 小論文の概要と傾向

試験の概要

出題形式:
※大学HPで過去問公開

配点:400/400

時間:

出題の傾向

早稲田大学院博士課程出身講師がレクチャー
多数の作文・小論文・大学生レポートを採点。雑誌寄稿、論文執筆の経験

難易度:難

【ポイント】
大学による解答例および出題意図が公開されている。
大学が示している以上、これ以上信頼できる正答はなく、この大学学部を受験する志望者は全員、閲覧しているだろう。
当校で小論文出題の解説として取り上げる理由は、その出題がきわめて良問である点にあり、課題文と正答に対して説明を加えておきたいことに拠る。

大阪公立大学 入試情報サイト
https://www.omu.ac.jp/admissions/ug/exam_info/past-eq/

2023年、2022年度とも与えられた課題文は、哲学や文化の根底的なテーマに関するもので、本格的な出題内容と言っていいだろう。

令和5年(2023年)度
野矢茂樹『語りえぬものを語る』(講談社学術文庫)から課題文が採られた。
要するに高名な哲学者ウィトゲンシュタインの《論理空間》に関する解題、論考である。なんと言ってもウィトゲンシュタインは難解で知られる。

彼の言語哲学に関して詳細に解説できるほどの腕力はないが、ここで説明を加えておきたかったのは、《世界の分節化》である。《論理空間》と《世界の分節化》、そして《分節化された言語》は同時に成立していなくてはならないという点が課題文の主張点である。

その意味を問1問2で問うている。

当校で《そもそも論文とはなにか》をオンラインで講義する際にスライドを用いながら説明をおこなっていくが、そのなかでも《分析対象の分節化》が含まれている。
オンライン講義スライド抜粋
https://kuberu-ac.com/evidence/#index_id0

わかりやすくいえば、例えば《自然》を観察し、分析考察する際に、海も河川も湖も沼も、山も森も林も、太陽も木星も海王星もすべて同時に対象化することはできない。海なら海、川なら川、湖なら湖と分節化(articulation)し、観察する対象を切り取るのが科学の方法である。また例えば、スポーツについて考える時に、ボクシングもアメリカンフットボールもフェンシングも同時に観察するというよりも、いずれかの競技、種目を取り上げたうえで分析し、考察する。これが科学的な方法論である。
(加えて、比較対象先として例えば、湖と沼、木星と海王星、アメフトとフェンシングを取り上げたうえで、それらを比べることを通じて事例同士の共通点や相違点、特徴や特性を明らかにし、浮き彫りにさせていくことも一般的である)

そして、論文を書く際にもこの姿勢と方法論を理解し、実践することがきわめて重要なのである。

例えば「車いすの天才物理学者」ホーキンス博士が、万物や全宇宙の運動法則を解き明かすべく、ブラックホールに着目したうえで量子宇宙論を展開したように、基本的には海なら海、川なら川、ボクシングならボクシング、アメフトならアメフトを観察の対象として取り上げ、(場合に応じて比較検討しながら)分析し、考察していくことが大学入試小論文でも求められている。

そうした意味で、この出題はひじょうに優れたものであると見受けられる。さらに言えば、こうした抽象的な哲学に関する論考をはじめて試験場で読んだとすれば、合格を手繰り寄せるのはおそらく難しいだろう。次の令和4(2022)年度をみてもそうしたことがいえるからである。

文系小論文基本講座

令和4年(2022年)度
構築主義(constructionism)と本質主義(essentialism)に関する、渡辺靖の論考である『<文化>を捉え直す―カルチュラル・セキュリティの発想』(岩波新書)が課題文として設定された。

問1構築主義本質主義および相対主義がどのような立場なのか、問2で有名なエドワード・タイラーによる<文化>の定義について構築主義の立場をとるとトートロジー(同語反復)になる点に関して説明を求めている。つまり、きわめて根底的な課題を設問に設定している。大学の姿勢というものが伝わってくる。わかりやすくいえば、「高校生相手であっても、手加減したくない」というか「おもねるような出題はしない」という大学によるメッセージが伝わる課題文と設問である。

問3は、課題文の「境界線を可視化し、編み直すことで”新たな『現実』を創出しようとする試み”」に関して「あなたが境界線を編み直すことによって、”新たな『現実』を創出してみたい”と思うことを挙げ、その意義」を論述するよう要求している。

その正答例としてジェンダー(社会的性差)が取り上げられている。
例えば次の大学などでもジェンダーについて出題されている。
名古屋大学法学部[前期]一般選抜【小論文解説】
横浜国立大学 都市科学部 都市社会共生学科[前期]一般選抜【小論文解説】

しかし一方で、高校生は《ジェンダー》について理解が進んでいない。厳しい言い方をすれば「ジェンダーとはどのような概念なのかがわかっていない」という印象がある。だからこそ、大学側も出題しているのだろうと見込まれる。

こうした状況を受けて、当校では早稲田大学スポーツ科学部を目指した受講生向けではあるが、ジェンダーを説明したオンライン講義を収録した。正答例の「男女の性差に関する境界線」とはどのようなことなのか、生物学的性差に対する「社会的性差」とはなにかについて詳しくかつ分かりやすく解説している。当校受講生には講義をデジタル頒布している。

なにやら宣伝調ではあるものの、高校生の皆さんに《ジェンダー》について理解してほしいと思うと同時に、これだけ毎日のようにニュースで《ジェンダー》にまつわるニュースが報じられている以上、理解することに損はないと強調しておこう。

最後に付け加えておけば、問3の正答例で説明されている通り、社会的性差は、古代、つまり洞穴で人びとが暮らしている時代から存在していた。わかりやすくいえば、「男性は戸外へ狩猟に出かけ、猪や豚を刈る」一方で、「女性は出産し、育児をおこないつつ、男性が刈ってきた猪や豚を住居で調理し、その着物を洗う」といったことである。これが本質主義的な男女観であり、父家長制と呼ばれる家族制度を支える価値観や考え方である。そうした男女の間の境界線が、現代社会において見直されつつある。

正答例で説明されている通り、「職業の自由な選択、平等な雇用や収入差の是正、出産や育児休暇といった子育てへの男性参画、食事の用意をはじめとする家事への男女の共同参画など」が今日、重要視されるようになったわけである。

つまり、古代から現代に至る社会的性差は、今日《ジェンダー》という概念や言葉や考え方が登場し、浸透する過程で問い直されつつあるのだ。もちろん、古代において《ジェンダー》という概念や言葉や考え方はなかった。それは現代において登場し、浸透しつつあるものである。

※1 参考までに付言しておけば、国公立・私立を問わず、また志望校の難易を問わず、上記の他大学出題解説は役に立つものなので、閲読しておいてください(×「国立だから関係ないや」「私立だから見なくていいか」)
※答案を執筆した際は、出題分析の質の高さが担保された添削講評を受ければ、いわゆる書きっぱなしにならずに済むため、当校ほかで提供している「単発添削」や「講座受講」を活用することを勧めておきます

※2 なお、当校講師は社会情報学、メディア研究で博士課程で修学した経験や私立大学で「情報社会論」の講師を務めた経験があるため、東大情報学環(大学院修士課程)入試や社会科学系大学院修士課程入試の論文指導も可能です

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具体的な対策問題

過去問以外に、どのような問題に取り組むことが小論文対策になるかわからないといった相談の声が寄せられることがあります。
当校では、アドミッションポリシーを分析し、過去問以外で事前に取り組むべき対策問題を選定して提示するほか、時事課題論文については新聞記事から作問して用意するケースもあります。

参考)東大情報学環・お茶の水女子大・一橋大 院試過去問

例えば、東大情報学環(大学院修士課程)入試では、次のように出題される(2020年過去問)。
院試では課題文は与えられないことが一般的です。

以下はお茶の水女子大と一橋大の修士課程の過去問(2023年)。

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