福岡教育大学教育学部 初等教育教員養成課程 人文・社会教育プログラム[学校推薦・一般選抜後期日程] 小論文の概要と傾向
出題解説(2024年度試験)
問題の背景
《メタ倫理学》という高校生に馴染みの薄いだろう、一見すると取っ付きづらい学問領域に関する論考が採り上げられている(ただし、東京大学の2024年度学校推薦型選抜において倫理学に関する論考が課題文として採られ、出題されている)。道徳をめぐる考察は、アダム・スミスやマックス・ウェーバーのみならず、イマヌエル・カントなりニクラス・ルーマンなり、あるいは古代ギリシャ哲学から現代哲学に至るまで人間や社会を取り巻く中心的なテーマであり続けている。
今回、福岡教育大学の初等教育教員養成課程で倫理学を題材とする小論文試験が出題されたことに着目した。つまり、教育学部の小学校教諭を養成するためのコースにおいて、倫理学の学術的な意味、さらに文化、環境、社会に関する諸問題を答案で論じる問いとして設定し、その議論の前提(「そもそも」)を検討するよう求める設問の意味にも注目する必要がある。
出題の背景(1・2・3)
(1)
なぜなら、初等教育と倫理学に関する議論は、一見すると高校生がそれら同士を遠く感じるかもしれないからである。つまり双方には、溝やギャップがあるように思うかもしれない。しかし、大学側はそうは捉えていない。ゆえにこうした出題をおこなっていると分析されるのである。つまり、わかりやすくいえば、成人のみならず小学生も道徳や倫理、規範や義務を自明視することなく、問い直す必要があると大学側は考えているということである。
※インタビュー冒頭部分(約9分)
※カフェでの取材だったため、周囲の音が入っていることを予め了解下さい
(2)
たしかに、現代社会を取り巻くさまざまな問題や課題は、すぐに解決できるようには思えない。例えば、地球環境問題やロシアとウクライナとの戦争は、複雑な要素や条件が絡まりあい、解決の糸口さえ見いだせないような状況にある。とはいえ、そうした事態を小学生なりに考え、説明できるとともに、意見をもち、解決を担っていることを教えることが小学校教師には求められている。
(3)
たとえ日本の公立学校における教師の過重労働といった深刻な就労状況のみならず、各家庭間の経済的格差が広まり、固定化しつつあり、教師も生徒も重大な事態のなかに付置されているといえど、小学校教諭は子どもたちに倫理や道徳について教え、一般的な社会通念を捉え返していく強靭な姿勢や能力を養う手助けをおこなう必要があるとこの出題は訴えているように見受けられる。そうした教育に関する高邁な理想がなければ、初等教育教員養成課程の小論文試験で《メタ倫理学》について出題しないであろう。
選考全般で求められること
したがって、「そもそも」を問い返すことの意義や重要性を十分に理解することが受験者に求められているといえるだろう。それはおそらく小論文試験のみならず面接選考や志望理由書などの書類選考においても重視されるものと思われる。もちろん、学問における批判的精神(「そもそも」を問い直す)ばかりでなく、主体性や協調性、思考力や判断力や表現力も選考で測られるわけではあるが、《批判》とは一体何であるのかを知っておく必要があるだろう。
補足
蛇足ながら、《批判》という言葉を聞くと、多くの小学生が人口に膾炙している「論破王」なる人のいわば相撲の取り口を思い起こすのかもしれないが、大学の教育学部教員がそれに対して危機感を感じないはずはないだろうわけで、「これは一から《批判って何だろう》《問い直すってどういうことなんだろう》を入学する学部生へ問う必要があるなあ」と試験問題を設定したとしても、何ら不思議はないだろう。
正答例
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大学入試の小論文解説・正答例&Web講義
具体的な対策問題
過去問以外に、どのような問題に取り組むことが小論文対策になるかわからないといった相談の声が寄せられることがあります。
当校では、アドミッションポリシーを分析し、過去問以外で事前に取り組むべき対策問題を選定して提示するほか、時事課題論文については新聞記事から作問して用意するケースもあります。
参考)東大情報学環・お茶の水女子大・一橋大 院試過去問
例えば、東大情報学環(大学院修士課程)入試では、次のように出題される(2020年過去問)。
院試では課題文は与えられないことが一般的です。
以下はお茶の水女子大と一橋大の修士課程の過去問(2023年)。
※1 参考までに付言しておけば、国公立・私立を問わず、また志望校の難易を問わず、上記の他大学出題解説は役に立つものなので、閲読しておいてください(×「国立だから関係ないや」「私立だから見なくていいか」)
※答案を執筆した際は、出題分析の質の高さが担保された添削講評を受ければ、いわゆる「書きっぱなし」にならずに済むため、当校ほかで提供している「単発添削」や「講座受講」を活用することを勧めておきます
※2 なお、当校講師は社会情報学、メディア研究で博士課程で修学した経験や私立大学で「情報社会論」の講師を務めた経験があるため、東大情報学環(大学院修士課程)入試や社会科学系大学院修士課程入試の論文指導も可能です
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