埼玉大学 一般選抜 小論文の概要と分析
経済学部国際プログラム[前期]
【ポイント】
現代社会の諸課題に関して、新聞や新書の購読を通じて背景知識を取り揃え、政治的、経済的、社会的に論じられる基礎体力をつけておくことが小論文対策としてなによりも重要です。
令和5年度
権威主義体制が台頭し、民主主義体制が揺らぐ中で、その可能性をどのように展望すればよいのかという、きわめて本質的な議論が課題文として採用されています。設問も政治体制と乳幼児死亡率との関係を分析したデータに関して説明させたうえで、日本における政治、政策の現状と課題を述べさせるという本格的なものです。
この課題文は、日経記事から抜粋されています。また論者は、東大の比較政治学の准教授であるから、当然課題文の論理構築もきわめて明瞭かつ堅牢です。3つの論点を新聞記事用にわかりやすく提示しています。
つまり、出題者の大学教員はこの日経記事を読んで、「これは入試課題文にふさわしい」と判断したということです。したがって、ごく単純に経済学部の受験者なのだから「日経くらいは日ごろから閲読しておかねばなりませんよ」と大学教員はメッセージを発しているわけです。
とりわけ日経は政治的、経済的な事象や現象に関する解説記事について、積極的に内外のアカデミシャン(大学教員や研究所員など)に執筆依頼しています。埼玉大学経済学部国際プログラムの受験者は必読でしょう。
令和4年度も令和3年度も日経記事から引用されています。
- 問題意識・問題提示 ~人間や社会にとってなにが重要なのかを示す
- 観察(の記述) ~具体的事例を上げたうえで、それについて説明する
- 分析 ~その事例はどのような特徴があるのか(どのような特徴があると導き出せるのか)
- 考察 ~①・②・③をふまえ、さらに鋭く結論としてまとめる
- 小論文に関する基本的な考え方や知識(①②③)
- 各大学の入試小論文解説(④)
- 正答例にくわえてWeb上での講義(⑤)
- 当校受講生の合格者の声(⑥)
を以下のリンクからみることができます。
経済学部[後期]
【ポイント】
現代社会の諸問題に関する背景知識を新書や新聞などを通じて取り揃えたうえで、過去問のみならず類題の答案執筆をおこなっておきたいところです。
令和5年度
「ハーバード白熱教室」で一世を風靡したマイケル・サンデルの『実力も運のうち―能力主義は正義か?』から抜粋されました。サンデルの最新刊である。サンデルがどのような重要論者なのかを本試験会場で初めて知るのと概略を事前に知っておくのとでは、当然ながら答案執筆に決定的な差が出ます。
つまり、サンデルほどの著名な思想家については事前に調べておくことが小論文対策の「勉強」です。
サンデルは「教室ー」で、現実世界の道徳的ジレンマを例に、正義とはなにかについて論じました。
※テレビ朝日の取材インタビューのリンクも以下に貼り付けておきます
サンデルは、ジョン・ロールズの系譜に連なる政治哲学者であり、「コミュニタリアニズム(共同体主義)と言えば、サンデル」とピンとこないようであれば、小論文対策は進んでいないということになります。
共通善/公共善(common good)や熟議民主主義については、学問への入門編(橋渡し)の意味合いも含め、次のWeb講義【北九州市立大学法学部】2023年度 小論文解説・正答例や【静岡大学グローバル共創科学部(地域創造学環)】2022年度 小論文正答例ほかを参考にしてほしい。
令和4年度
行動経済学におけるナッジである。福島大学 経済経営学類[後期]一般選抜でもキャス・サンスティーンの著書から出題されています(以下にTED講演の動画)。集団の行動変容を促すナッジは、とりわけコロナ禍で注目を集めたがゆえに、経済学部系で出題されたと考えられます。高校生にとってもイメージしやすいからです。
ここでも重要なのは、人間、社会、経済の複雑な関係から設問を考察することです。
ナッジについて、集団の心理や行動をまるで「魔法の杖」のように一網打尽で変えられる道具立てのように捉えた記述は、大幅な失点対象となるでしょう。
また、総合型選抜では移民に関する考察が出題されていることからも、現代社会全般の諸問題について背景知識を取り揃え、答案訓練をおこなっておく必要もあります。
付言しておけば、令和3年度社会人選抜では貧困と経済がテーマの課題文に採られていたようであるから、以下の【青山学院大学地球社会共生学部】2020年度 小論文解説・正答例も参考にしてほしい。
教養学部[後期]一般選抜
【ポイント】
短期的で単視眼的ではない視野、つまり実学ではなく学問の本筋、王道ともいえそうな「このことを考えることは、直接お金をうみだすわけではないけれど、『学問すること』は楽しく、知的興奮のような喜びを伴うものだ」という大学側のメッセージを答案で表現していきたい。それがリベラルアーツというものでしょう。
令和3年度から遡って、出題を概観しましょう。
令和3年度
吉見俊哉『「文系学部廃止」の衝撃』(集英社新書)が出典です。吉見は日本を代表する社会学者で、東大の情報学環でメディア研究の第一人者として研究と教育に従事し、副学長を務めるなどしました(現在は退官し、国学院へ転出)。メディア学だけでなく、後年は大学という知のあり方とでも呼べばよいような著作や米国滞在時の社会観察・分析の著作も精力的に著しています。大学入試小論文の課題文に採られやすい、論理的でありつつわかりやすさ(食べやすさ)も体現した文章が多い。
教養部という学部らしい課題文選択で、埼玉大学が「なにをもって『教養』と考えているのか」を知るうえで、貴重な過去問です。
令和4年度
小熊英二『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』(講談社新書)から引用されました。小熊も社会学者です。小熊も吉見と同様、アカデミズムの住人ではあるものの、サントリー学芸賞や小林秀雄賞を受賞するなど、どちらかといえば「著名人」です。小熊も大学入試小論文に採られやすい。
これもまた吉見とアプローチが共通しているのは、歴史社会学的な論証の対象への迫り方です。そうしたアプローチが確かなものだから課題文に採用されやすいのです。
令和3年、4年の出題を通じて読み取れることは、過去から現在に至る歴史的な系譜を鮮やかに解釈したり、令和5年度の「善と悪」道徳と倫理、といった、それ自体が直截な表現をすれば「お金を直接生み出すことではないこと」について論考を広げる能力と姿勢を測ろうという出題意図が浮かび上がってきます。
教育学部[前期]
【ポイント】
教育学部らしい社会科教育の実践とその意義、重要性について端的に問う良問です。
東京学芸大など教員養成課程、教育学系の出題にみられるコンパクトな設問で、教育は人間、社会、文化にとってどのような意味があるのか、どのように捉えられるのかといった根本的な意味を問う設問スタイルです
(なお、当校講師は修士課程で教育学研究科 社会科教育専攻)。
令和5年度は社会科教育と共生社会、令和3年度はそれと宗教についてダイレクトに問うものであった。令和4年度は少子高齢化と人口減少という人間や社会にとって根本的なテーマです。
ポイントは、社会科のほか各教科の初等中等教育における小中高生に対する教授について理論(大学入試小論文では教育にまつわる理論というよりは、教育の理念の記述となるだろう)と実践(実際に教室で具体性をもって児童へ授業で伝える)の双方を必ずふまえながら立論することです。
つまり、理論や理念だけでは足りず、実践(具体的な事例)のみでもなく、論じることが重要である。これはある意味で教育学の「背骨」をなすものといってもいいでしょう。
そのためには、理論については、例えばアクティブ・ラーニングや協働学習/協同学習のほか教育に関わる事柄を事前に学んでおく必要があります。また、例えばジョン・デューイに関する新書を読んでおくなどが対策となるでしょう。一方で実践に関して、自身の授業経験だけでなく、当該の埼玉大学や他に東京学芸大学などのHPや教育学系の論集などに目を通しておけば対策としては万全でしょう。
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- 小論文に関する基本的な考え方や知識(①②③)
- 各大学の入試小論文解説(④)
- 正答例にくわえてWeb上での講義(⑤)
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を以下のリンクからみることができます。
具体的な対策問題
過去問以外に、どのような問題に取り組むことが小論文対策になるかわからないといった相談の声が寄せられることがあります。
当校では、アドミッションポリシーを分析し、過去問以外で事前に取り組むべき対策問題を選定して提示するほか、時事課題論文については新聞記事から作問して用意するケースもあります。
参考)東大情報学環・お茶の水女子大・一橋大 院試過去問
例えば、東大情報学環(大学院修士課程)入試では、次のように出題される(2020年過去問)。
院試では課題文は与えられないことが一般的です。
以下はお茶の水女子大と一橋大の修士課程の過去問(2023年)。
受験生へのアドバイス
※1 受講生には繰り返ししつこく伝えてきたところではあるが、本試験では当校なりが臨席したうえで隣で答案執筆の介助や補助線を引くことはもちろんできない。サッカー選手のように、ピッチ上に出場した選手としてドリブル、パス、ポジショニングの自己判断を下しながらそれらを一人で行い、局面を打開せねばならない。本解説も「受験生の多くが知りたい、手っ取り早い正答例や正答パターン」を示せば、当然それに引きずられて各位が答案執筆をすることになるため、極力避けるよう配慮したいと考えている。文章を書くという行為自体がきわめて内省的な営為だからである
※2 また、参考までに付言しておけば、国公立・私立を問わず、また志望校の難易を問わず、上記の他大学出題解説は役に立つものなので、閲読しておいてください(×「国公立だから関係ないや」「私立だから見なくていいか」)
※3 答案を執筆した際は、出題分析の質の高さが担保された添削講評を受ければ、いわゆる「書きっぱなし」にならずに済むため、当校ほかで提供している「単発添削」や「講座受講」を活用することを勧めておきます
※4 なお、当校講師は社会情報学、メディア研究で博士課程で修学した経験や私立大学で「情報社会論」の講師を務めた経験があるため、東大情報学環(大学院修士課程)入試や社会科学系大学院修士課程入試の論文指導も可能です
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