青山学院大学総合文化政策学部 2024年度 B方式《論述》【正答例・詳細解説】
小論文試験は、
①高校で「小論文」といった授業科目が設定されておらず、
②また、「小論文」という高校教科書があるのでもなく、
③高校で「小論文の書き方」を教わった経験のない人も多い、
④そして、正答例を「なんとなく『眺める』」だけで、実力が自ずと向上するわけでもない
いわば「ないない尽くし」のなかで学習を進める対策が難しい科目です。
本番の試験で着実に高得点を取るには、
①論文とはそもそも何か
②論文のルール、作法、構造とはいかなるものか
③論理的思考力、表現力、読解力をどのように培うか
④図表読み取り問題で問われる《情報の取り出し》《解釈》《評価》
について理解したうえで、的確に対策と実践演習を進める必要があります。
合格者の声(2025年度大学入試)
2024年度問題(B方式論述)
前年度の福沢諭吉に続き、2024年度はアンリ・ベルクソンが出題された。まさか大学入試小論文でベルクソンを紹介するとは正直言って思っていなかったが、出題されたからには紹介せざるをえないだろう。
いきなりではあるものの、次の通りベルクソンの来歴を掲載しておこう。なんと言っても実際の試験会場では、いきなりベルクソンの原典を読んだうえで論じるのであるから、こうした唐突さにも慣れておく必要があると思ってもらいたい。
ベルクソンは,フランス20世紀初期の代表的な哲学者であり,19世紀から独仏で展開された「生の哲学」の主要な人物である。その著作には,『時間と自由』『物質と記憶』『創造的進化』などがあり,「持続」と術語化される時間の実在と,空間に対するその優位を主張した。端整なフランス語が評価されノーベル賞も受けている。だが、社会学との関連では、『道徳と宗教の二源泉』という最後の大作が重要である。そこでベルクソンは,生の哲学の議論を、はじめて社会や道徳(倫理)という事象に直接むすびつけていく。「開いた社会」と「閉じた社会」によって示される議論は、時間と空間との対比とパラレルである。だがベルクソンは「開いた社会」=「人類」の社会の領域を,神秘的な特権的宗教者によって可能になるものと描きつつも、「閉じた社会」における「仮構作用」による社会性(「本能」や「民族」の領域)を軽視するわけではない。また最終章における神秘主義と機械主義との接合は、たんなる20世紀の機械文明の批判ではなく,そこでの技術の力に,過去の宗教者たちとは異質な「開いた社会」の可能性をみてもいる。また国際連盟の特派使節などもつとめ,国際政治上でも活躍した。
『現代社会学事典』(弘文堂)
正答例
設問
あなたは筆者の見解を支持しますか、それとも筆者の見解に反対ですか。いずれの場合も対立する意見に反論しつつ、適切な論拠や具体例をあげながら、自らの見解を700字以上800字以内の日本語で述べなさい。
当校の示した正答例について、段落毎に解説を示していこう。
- 重要論者の紹介と一部の著書の本文抜粋、重要論考に関する解説のほか、それらの論者に関する大学入試小論文出題例を紹介
- また、当校講師による解答作成時の問題用紙および答案用メモおよび推敲前の初回執筆時正答例も集録
- あわせて、ぜひ読んでおきたい資料群も掲載
◎第一段落[解説]
設問で「筆者の意見に対する支持/反対」を表明するよう指示されている。したがって、答案の第一段落で支持するのか、反対するのかを明瞭に示す必要がある。「支持する」「〇〇という点から筆者の意見を肯定する」「筆者の意見を肯定したい」「筆者の意見を肯定する立場から論じる」または「反対する」「□□という点から反対である」「筆者の意見に反対する」「筆者の意見に反対する立場から考察する」など、わかりやすく表明してもよい。
青山学院大学各学部出題解説 ※画像クリックで該当リンクへ
◎第二段落[解説]
第一段落で挙げた「所有」を引き継いで、ベルクソンの示した「機具」をめぐる議論を「道具や機械が文化の物質的側面を形づくる」と「道具や機械」と《文化》との連関を端的に指摘した。
そして、所有という概念が重要であるのは、資本主義の発展を支えた(る)からであることを正答例は提示している。800字という短い制限字数であるため、このようにコンパクトに文章を書き連ね、つなげていく必要がある。一文ずつ要約文を書いていくような感覚をもちたい。冗長な(無駄な)表現、記述が入り込む余地はないといえる。対立する意見に対する反論、論拠、具体例を答案に入れるよう指示されているからである。
合格者の声
◎第三段落[解説]
具体的な事例として正答例は三つ挙げた。ロシアとウクライナの戦闘(あるいは戦争、紛争)は周知の通り、深刻な状況を迎えている。両国の戦闘には、複雑な要因が背景にあるが、従来の領土をめぐる戦争、紛争として挙げている。具体的な犠牲者数について国連の発表から採ることで、ベルクソンの記述や来歴に答案で呼応させている。
◎第四段落[解説]
SDGsの掲げる「インクルーシブな社会、共生社会の実現」は、共感や融和など他者への想像力がきわめて重要となる。相互扶助もそれに連なる熟語である。その四文字にあわせるかたちで社会秩序を置いた。
当校受講生には、青山学院大学総合文化政策学部の対策本としてまさにぴったりと思える文化にまつわる新書を詳細に解説した授業動画も用意している。高校教科書を一歩か半歩超えたところにこの学部の総合問題・論述対策の要諦がある。
青学総文試験対策には外せない当校映像授業
試験対策の方向性
同じ2024年度のA方式《総合問題》をみればすぐにわかる通り、例えば問12でメディア論の重要論者であるマクルーハン、リップマン、ブーアステイン、ボードリヤールが選択肢で問われた。
情報社会論、メディア論においては、いわば「知っているのは当たり前」である一方、仮に彼らの論考がB方式《論述》の課題文として出題されれば、受験生はこうした論者の論考をどのように自分自身の体験や問題関心に引き寄せて論じるかが問われる。とはいえ、高校生で例えばこの4人を「知っている」「聞いたことがある」という人の割合は少ないだろう。そこに受験対策の難しさがある。
~高校生がマスメディア・メディア、ニュース・報道に関する理解をさらに深めるために~
当校代表講師による論文
【参考】米国のNPOニュースメディア組織Texas Tribuneによる報道の分析―テキサスでの大型台風被害をめぐる2016年の「Hell and High Water」報道を事例として―
https://bit.ly/3MO7P9C
日本マス・コミュニケーション学会・2019年度秋季研究発表会・予稿
繰り返せば、そうした知識のみならず、古典や原典に対する「慣れ」が一朝一日に受験者の中に形づくられることは
ないといっていいだろう。高校社会科教科書全般へ目配りしつつ、学習方法が定式化されているとはいえないこのB方式《論述》のために時間や手間をかけて、着実に人文社会科学に関する入門編の知識や重要論者、キー概念を身につけていくほかない。そうした意味では、多くの高校生にとってどう対策すればよいのかわかりにくい一方で、青山学院大学総合文化政策学部はこれ以上ない良問を出題しているとも当校は感じる。
答案戦略
ただし、これを読んでいる受験予定者の高校生・既卒生に勘違いしてほしくないのは、ベルクソンについて事前にある程度、知っておく必要があるかといえば、当校はなくとも構わないと考える。むしろ、ベルクソンの課題文に採られたセクションのなかから、論考に対する是非を立論する際にほかの論者や概念を引っ張ってこられるかが合否をわけると思う。具体的には例えば、総合文化政策学部である以上、文化相対主義にまつわる立論などが可能だろうという意味合いから、正答例を作成し公開している。
赤本正答例の陥穽
参考までにふれておけば、赤本は序文でいきなり「私は」ではじめているとともに「私は考える」を第一段落、第三段落の最終文で用いている。課題文がなにせベルクソンであるゆえ、学部教授陣による採点でも瞬時にこれでマイナス点をつけるといった辛い採点はおそらくしていないだろうと推察するものの、もしこれが当校で答案として受講生から提出されれば、講座受講で最初に受けてもらう講義である《(小)論文とはそもそもなにか》・《(小)論文のNG》を見直す必要をすぐさま受講生へ伝える。
添削では大きく目立つ字で《赤字》を入れる。その理由は紙幅が限られているため、ここですべて説明できないが、論文や小論文で「私は」と序文に書かないという点だけは記しておこう。当校の見立てでは、赤本だけで青学総文のB方式《論述》対策をおこなうことは、率直にいえばリスクがあるように思われる。
2023年度(A方式総合問題)
2023年度(A方式総合問題)の出題は、B方式《論述》で課題文として採られる可能性が十分あると思われる、カール・ポランニー、ウルリッヒ・ベック、イヴァン・イリイチが登場した。また、例えば問9のジョン・ロールズ、問11のニーチェ、ウェーバー、デューイ、タゴールと大学での修学のために基礎的な背景知識となる重要論者が問われ、紹介されている。
2022年度(A方式総合問題)
2022年度(A方式総合問題)の出題も、B方式《論述》で課題文として採られる可能性が高いだろうアダム・スミス、ケインズ、フリードマンと経済学のスーパースター、現代哲学の代表選手であるハーバーマス、アーレントが登場した。また、レヴィナスなど社会科学のビッグネームに関する知識を問うている。A方式総合問題で重要論者として出題されている以上、大学はこれらの重要論者について、大学入学前に知っておいてほしい、あるいは知っておくべきだと明確なメッセージを発しており、背景知識習得の対策を図る必要があるだろう。
B方式《論述》対策
年度 | 論者 | 著作 |
2024年度 | ベルクソン | 『道徳と宗教の二つの源泉』 |
2023年度 | 福沢諭吉 | 『現代語訳 文明之概略』 |
2022年度 | マキャベリ | 『君主論』 |
2021年度 | カント | 『啓蒙とは何か』 |
2020年度 | ホッブス | 『リヴァイアサン』 |
2019年度 | フロイト | 『幻想の未来/文化への不満』 |
2018年度 | ルソー | 『社会契約論』 |
2017年度 | ジョン・スチュアート・ミル | 『自由論』 |
2016年度 | プラトン | 『国家』 |
こうしたいわば「スーパースター」の原著や古典が課題文として採られる意味合いは、それをその場で読解し理解できること、そして自身の問題関心に引きつけながら論じられるかをみている。
高校生でも読める、理解すべき新書ほか図書や資料を有効利用し、確かな研究者による解題にこそ目を通しておくことが求められている。
- インタビュー冒頭部分(約9分)
- カフェでの取材だったため、周囲の音が入っていることを予め了解下さい
当校レクチャー
こうした出題の対策を進めるにあたり、当校では早稲田博士課程出身の講師陣がその経験に基づきながら、合格に必要な論述に関する知識を講義で提供することができます。
それとともに、小論文提出答案に対する大学教員水準の添削講評を通じて、実力向上のためのフィードバックを提示していきます。書けるようになるまでしつこく丁寧にレクチャーをおこなっていくことが当校講座の特徴です。
レクチャーの方針
合格を達成すべき最大の目標に据え、それに向けて努力するのは当然としても、ただ単なる大学受験対策というよりも知的好奇心を満たしながらいかに大学水準の人文社会科学をある程度先取りした内容をレクチャーするかに注力することになります。博士課程出身者らによる学会発表、論文執筆の経験をふまえた実践的な指導をおこないます。
その他開講講座・コース ※受講申込受付中
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- 小論文に関する基本的な考え方や知識(①②③)
- 各大学の入試小論文解説(④)
- 正答例にくわえてWeb上での講義(⑤)
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を以下のリンクからみることができます。
大学入試の小論文解説・正答例&Web講義
具体的な対策問題
過去問以外に、どのような問題に取り組むことが小論文対策になるかわからないといった相談の声が寄せられることがあります。
当校では、アドミッションポリシーを分析し、過去問以外で事前に取り組むべき対策問題を選定して提示するほか、時事課題論文については新聞記事から作問して用意するケースもあります。
参考)東大情報学環・お茶の水女子大・一橋大 院試過去問
例えば、東大情報学環(大学院修士課程)入試では、次のように出題される(2020年過去問)。
院試では課題文は与えられないことが一般的です。
以下はお茶の水女子大と一橋大の修士課程の過去問(2023年)。
※1 参考までに付言しておけば、国公立・私立を問わず、また志望校の難易を問わず、上記の他大学出題解説は役に立つものなので、閲読しておいてください(×「国立だから関係ないや」「私立だから見なくていいか」)
※答案を執筆した際は、出題分析の質の高さが担保された添削講評を受ければ、いわゆる「書きっぱなし」にならずに済むため、当校ほかで提供している「単発添削」や「講座受講」を活用することを勧めておきます
※2 なお、当校講師は社会情報学、メディア研究で博士課程で修学した経験や私立大学で「情報社会論」の講師を務めた経験があるため、東大情報学環(大学院修士課程)入試や社会科学系大学院修士課程入試の論文指導も可能です
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