慶応義塾大学文学部[一般選抜] 小論文解説
出題解説
私大最難関の本格的な小論文出題
慶応文学部の小論文試験は、国内で最難関とみなしてもよいだろう。高度な読解力、記述力、思考力を問う本格的な出題である。
2024年度は、佐藤仁『争わない社会「開かれた依存関係」をつくる』が課題文として採られた。佐藤は、東京大学 東洋文化研究所 新世代アジア研究部門 教授である。多くの著作があるが、研究室のサイトによれば、専門分野は《地域研究》、研究テーマは《資源と人間》、研究テーマに関するキーワードは《資源,環境,統治,開発,援助,東南アジア,政治,行政,環境と社会》である。
参考)東京大学サイト
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/people/people000949.html
※追記:2024年度[一般後期]神戸大学でも佐藤仁『争わない社会』から出題された
2024年度出題の課題文が採られた理由
こうした課題文が採用された理由を分析すれば、次の二点が挙げられるだろう。ひとつは、グローバリゼーションが進行する世界のなかで、課題文にある通り、競争が争いへと転化し、地球環境問題や紛争、戦争が広まりつつあるように見受けられる点にある。つまり、さまざまな地域、民族、宗教の間で対立が深まると同時に、先進経済圏における福祉国家の衰退、開発途上国における社会保障の不備といった国家と市民をめぐる課題が浮上し、金融市場の規制緩和、急速な技術的変化や自動化など経済と技術をめぐる変化が世界規模でもたらされている。
こうした事態を迎え、競争をいかに争いへと転じさせないようにさせるのかが、きわめて重要なテーマとして顕在化しつつある。したがって、慶応文学部の教授陣はそれを論じる必要があると強く認識しているからこそ、こうした出題をおこなっていると捉えられる。
もうひとつは、課題文で取り上げられている通り、いわゆる「共有地の悲劇」は現代の資本主義社会において見逃すことのできない重大なテーマであるとともに、マイケル・サンデルが『実力も運のうち―能力主義は正義か?』で論じた通り、今日における競争と「勝敗」「成果」「能力」はいかなる関係にあるとみなすことができるのかもきわめて重要なテーマであることは言を俟たない点にある。
「共有地の悲劇」は地球環境問題やSDGsについて議論する際に避けて通ることができないと慶応文学部はみているということである。また、サンデルに代表される現代社会における競争をめぐる公正さとは何なのかというテーマを考える必要があると慶応文学部は見立てているということでもある。
※追記:2024年度[一般後期]静岡大学でも「共有地の悲劇」の出題があった
出題傾向の分析と求められる小論文対策
それは、2022年度にハーバーマスの『公共性の構造転換』とロールズの『正義論』に関する論考が課題文として採られた出題傾向が2024年度も踏襲され、一貫していることを指し示している。つまり、受験者に大学が求めている読解力、記述力、思考力に変更はないと見て取れる。慶応文学部の合格を目指すためには、人間、社会、文化に対する高い関心や民主主義、社会制度、社会規範といった重要なテーマに関する理解、そして抽象度の高い課題文を読みこなし、表現する能力開発を十分におこなっておくことが必要である。大学小論文の頻出テーマに関して大学生並みの読解力や学習が、入試時点で求められている。
※インタビュー冒頭部分(約9分)
※カフェでの取材だったため、周囲の音が入っていることを予め了解下さい
具体的には、政治・経済・外交・文化・社会・スポーツ・環境・ジェンダーなど多岐に渡る出題テーマに対応するために日々ニュースに接しておくと同時に、学問的関心をもって大学生並みの知識、つまり重要論者や重要論考に対する深い理解を受験前に取り揃えることが、慶応文学部に着実に合格するための小論文対策となる。
正答例
2024年度問題
かなり大雑把にまとめてしまえば、この著作の帯に「『自立=善、依存=悪』という常識を覆す」逆転の文明論」、著者による説明である「従来型の経済発展に対する反省から生まれたSDGsは『誰一人取り残さない』と言いながら、何から取り残さないかについて語っていません。依存先を失った人々は脆弱で、孤立しがちです」とある通り、グローバリゼーションの過程で広まった新自由主義的な価値観に基づく考え方に対する批判的な姿勢や視座がこの論考の根底にある。
そうした批判的視座を理解したうえで、要約をまとめることがポイントであろう(問1)。また、自身の意見論述においても、人口に膾炙している自立や効率といったタームや考え方に対する批判的な検討(見直し・問い直し)をどれだけ採点官に説得力をもって展開できるかが鍵となるだろう(問2)。
参考)東京大学 東洋文化研究所 佐藤仁研究室
「争わない社会『開かれた依存関係』をつくる」http://satoj.ioc.u-tokyo.ac.jp/works/single/152/
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- 小論文に関する基本的な考え方や知識(①②③)
- 各大学の入試小論文解説(④)
- 正答例にくわえてWeb上での講義(⑤)
- 当校受講生の合格者の声(⑥)
を以下のリンクからみることができます。
大学入試の小論文解説・正答例&Web講義
具体的な対策問題
過去問以外に、どのような問題に取り組むことが小論文対策になるかわからないといった相談の声が寄せられることがあります。
当校では、アドミッションポリシーを分析し、過去問以外で事前に取り組むべき対策問題を選定して提示するほか、時事課題論文については新聞記事から作問して用意するケースもあります。
参考)東大情報学環・お茶の水女子大・一橋大 院試過去問
例えば、東大情報学環(大学院修士課程)入試では、次のように出題される(2020年過去問)。
院試では課題文は与えられないことが一般的です。
以下はお茶の水女子大と一橋大の修士課程の過去問(2023年)。
※1 参考までに付言しておけば、国公立・私立を問わず、また志望校の難易を問わず、上記の他大学出題解説は役に立つものなので、閲読しておいてください(×「国立だから関係ないや」「私立だから見なくていいか」)
※答案を執筆した際は、出題分析の質の高さが担保された添削講評を受ければ、いわゆる「書きっぱなし」にならずに済むため、当校ほかで提供している「単発添削」や「講座受講」を活用することを勧めておきます
※2 なお、当校講師は社会情報学、メディア研究で博士課程で修学した経験や私立大学で「情報社会論」の講師を務めた経験があるため、東大情報学環(大学院修士課程)入試や社会科学系大学院修士課程入試の論文指導も可能です
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